節税のすすめ



 会計士のK先生がパソコンを買った。今まで猛烈な勢いで電卓をたたいていたK先生が,今度は表計算ソフトを使うと言う。電卓の方が早いと思ったけど,とりあえずパソコンは便利ですよと言う。勉強熱心なK先生は,しばらくしてEXCELを一通りマスターして,得意げに「簡単だ!」。流石K先生と誉めあげる。まだ痛い目に会っていない人には何を言ってもわからない。
 しばらくして,システムをWIndows95に変えると言う。そら来た。とりあえず止める。でも頑固な先生は聞く耳を持たない。しょうがないので,失敗したときの復旧工事を覚悟する。自分でインストールしてしまった。WORDとEXCELもWindows95版に変えた。何と,調子よく動いているという。今度は税務ソフトのWindows95版が欲しいという。Windows95で税金計算をするらしい。電卓をたたいた方が早いと思ったけど黙る。そろそろ確定申告の時期だ。私の税金計算もしてもらわなければならない。
                *****
 コンピュータ技術者っていうのは,毎日のように数字を扱っているのに,会計や税務に関しては素人である。もちろん私も同じだ。だいたい日本の税金っていうのは,戦後GHQが押し付けた税法で,ほとんどが直接税で成り立っている。サラリーマンは100%収入を補足されているので,節税が難しい。
 バブル華やかな頃は,マンション投資が流行った。ローンで買って人に貸す。金利が経費である。最初は賃貸料金より金利の方が遥かに大きいから,赤字になる。その赤字を給料に加え,確定申告すると節税になる,というのが仕組みだ。この仕組みも大前提がある。節税と言っても実際には金が出ていくから,購入したマンションの価格が暴落しては意味をなさない。
 そもそも本来必要のない経費で節税するのがいけない。消えゆく金で節税するなら,まだ税金を払った方がマシだ。理想的な節税は本当に必要な経費を税務署に認めさせることだ。
                *****
 サラリーマンは節税できない,と,考えている人が多い。が,実際には可能だ。まず,文筆業になる。これには実際のお金は不要だ。本誌の読者であるあなたは,皆,資格がある。次に,領収書を集める。これは面倒だが,原始伝票は税務処理上必要なので止むを得ない。
 で,原稿を書く。テーマは何でもいいけど,仕事に関係したことが書きやすい。建前は,仕事が終わってから6時間が毎日の執筆時間だ。
 まず,電気代や家賃が経費になる。もちろん100%は認められないが,3割位はいけるだろう。もちろん個人で買ったパソコンやソフトは必要経費だ。ワープロとして使ったり,研究材料だ。あと馬鹿にならない本代が,ほとんどすべて経費になる。執筆のための資料だ。取材のための交通費。情報交換のための会議費。おおよそ執筆するために必要な活動が経費となる。
 出来上がった原稿は臆面もなくCQ出版のインターフェース編集部に送ろう。Y編集長が親切丁寧に添削してくれる。ボツになったら,ボツだ,という証拠を文書でもらう。これで立派に赤字だ。まには採用されるかもしれない。でも心配はいらない。「当社規定の原稿料」っていうのは,十分少ないから,間違いなく赤字だ。おまけに印税として10%引かれている。
 確定申告の時期は2月26日から1ヶ月だ。1年分の領収書を集めて,経費を計算する。 バレてもともと。少々怪しいのでも入れておけばよい。できれば申告書は税理士に書いてもらった方がよいけど,費用がかかる。頑張って自分で書こう。節税というのは手間がかかるものなのだ。Windows95の税務ソフトで計算してもよい。まぁ,適当に書いていけば,税務署で丁寧に教えてくれる。税務署は親切だ。
 この方法で苦労して,経費を計上すると,収入にもよるが,既に支払った税金分の少しはは還付される。少し,と,言えば,それまでだ。もともと所得税って,それ程多くは納めていないのだ。
                *****
 と,ここまでの原稿をC出版のY編集長に見せたら,「私はどうしたらよいのか?」と聞かれる。流石に出版社に勤めていて,文筆業はまずい。簡単だ。ソフト屋になればいい。立派なソフトをコツコツ開発して,売り出せばいいのである。でも,案外大黒字になって,以前より余計に納税しなければならなくなるかも。

エッセイ集目次