手術の日


 ついに来た。手術の日だ。 朝,6時頃目が覚める。けっこう興奮してる。 T字帯と呼ばれるフンドシを締めて, ガーゼの寝巻きを着る。
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 7時30分に,美人の看護婦さんが, ベンゾジアゼピン系の緩和精神安定剤 セルシンを打ちに来る。 興奮を鎮めるためである。 躊躇なく,右側のお尻にやってもらう。
 8時に,また,美人の看護婦さんが, ザンタックという ヒスタミン受容体拮抗薬(H2ブロッカー) を打ちに来る。 手術中に胃酸分泌を止めるためである。 今度は,左側のお尻に打ってもらう。

手術開始

 8時30分,いよいよ病棟出発。 ぜんぜん,元気なんだけど ベッドに乗って移動。
「あのぉぉ,歩いて行けますけど」と遠慮がちに聞いてみる。
「規則なんです。」の一言で会話は打ち切り。
 4階の手術室に到着する。 ベッドが列をなして待っている。
手術室の入り口は,何やら複雑な仕掛けがしてある。 「ここで寝巻きを脱いで」って言われて, ごそごそ脱ぐ。
「え?病室から手術室までの間着るだけで3000円の寝巻きを買ったの」 と思うけど,ケチ臭いことは口にしない。 きっと寝巻きを着るというのが規則なんだろう。
コロコロって,転がっていきたい欲望を抑え, 機械が体を横に移動するのを待つ。 小川君なら,きっと転がっていくに違いない,などと考える。
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 ストレッチャーに載せられて,照明の下に連れられてゆく。 周りを見渡す。
「おぉぉぉぉ,ERで見たような手術室だ。」妙に感心する。
看護婦さんが,僕の口に酸素マスクをつける。 「ラリンゴの用意をしますか?」って,医師にお伺いを立てる。
私もラリンゴマイクロサージェリー,すなわち顕微鏡下の声帯ポリープ の手術を先にやるものと思ってた。
「いや,先こっちや」とか言ってる。
そうこうしてるうちに,右手の点滴がえらく痛くなってくる。
「ちょっと痛いけど,すぐに楽になりますよぉぉぉ。。。」って 看護婦さんが耳元で囁く。
確かに,別の意味で,すぐに楽になった。
ここで意識喪失

手術終了

 気が付いたら,やけに気分が悪かった。 「矢野さん! 分かりますか?」と看護婦さんの声。 ニコッっと笑ったつもり。
今から部屋に帰ると言う。 帰りはベッドのままが有難い。 とても起きれそうな状況じゃない。 ところが,途中,自動ドアの溝にベッドの車輪を落とし込み,1つ破損。 凄い振動とともにベッドが停止する。 次第に意識がはっきりする。
どうやら頭側の車輪を破損させてみたいだ。 車輪が1回転する毎に,頭が上下に1回振られる。
これはたまらん!
目で抗議しようと,頭を持ち上げてみる。
ぜんぜん,体が言うことを効かない。
おぼろげながら看護婦さんたちの会話が耳に入る。
「きゃ,車輪が割れてるぅ!」
「ベッド交換するの?」
「いいや,そのまま行っちゃえ,行っちゃえ!」
ガタゴトガタゴトと病院の廊下を移動している。 頭に振動が伝わってきて,猛烈に気分が悪い。

 やっと,部屋に帰った頃は,お陰で,随分意識もはっきりしてきた。 何しろ頭を上下に揺らされ続けられたのだ。 こうなると,酸素マスクが鬱陶しい。
 主治医のM医師がやってきて,
「これ,切り取ったポリープと扁桃腺です」って,見せてくれた。
「どうせ,覚えてないだろうから,また来ます」とか言って帰っていった。 しっかり覚えてるのだ。
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 時間が経つにつれ,痛みが増してくる。 完全に目が覚めて,随分気分がよくなった。 とりあえず,酸素マスクを外してもらう。
 点滴を確認する。
フルマリン1gの静注キットがぶら下ってる。 セフェム系の抗生剤だ。 痛み止めは混入されている形跡がない。 痛いぞぉぉぉ。

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 18時になったので,看護婦さんが痛み止めの錠剤夕食 を持ってきてくれた。 痛くて錠剤が呑めない。
根性入れてみる。
なんと,手術当日にソランタール100mg
ま,さ,か,これだけじゃないよね。
そのうち,痛み止めの点滴してくれるよね
 この頃,僕は,まだ,I大学病院を信じていた。
流石に夕食は食べれない。お粥を一口すすったら鼻からでてきた。 ここでギブアップ。

 舌も全体的に痺れてる。何も感じない。 上の2本の前歯がやけに痛い。 どうやら,これが,手術の後遺障害のようだ。
怖いもの見たさで,口の中を覗いてみる。 流石に手術のスグ後といことで,腫れ上がっている。 これが治まるのは,いつの日なんだろう。

 この日は何も食べなかった。飲まなかった。 飲み食いさえしなければ,耐えられない痛みじゃない。 唾液が飲み込めないので,垂れ流しにしながら眠りにつく。
 唾を飲み込んだときの痛みは, THC倉田先生の腰矯正激痛80%である。残念ながら福山君しか分からん尺度だが, 相当痛いのだ。分からん奴はTHCに行け!
ちなみに痛み止めはソランタール100mgのみだった。
すごいぞぉぉ僕
本日の痛みレベル=10
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 本日のご教訓
・扁桃摘出は痛いゾ!
・ソランタールは効かん!
・全身麻酔から覚めるとき,頭を上下されると猛烈に気分が悪い

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